黒いバラの話

地下鉄で、バラの花束を抱えた人を見ました。全てつぼみで、色は黒。
「珍しい色ですね」
「夜になると咲くんです」
その時、何かの故障か、地下鉄が急に止まって電気も消えました。あたりは突然真っ暗。周囲の人たちが何事かと騒ぐ中、その人が言いました。
「ほら見て。咲いてる」
「真っ暗で見えませんよ」
「私にも見えないの。このバラ自身も、今自分が咲いていることはわからないかも」
「どうしてあなたにはわかるんですか?」
「嗅いだことのないすばらしい香りがするからよ」
その時、車内に電気が戻りました。とたんにバラはしおれてしまいました。