10回読まない演出家・役者に脚本を渡すな

小説と脚本の最大の違いは、何でしょう。それは2つあると思います。
1つは心情描写がないこと。2つ目は読む人が舞台関係者に限られることです。

1についてはまた書く機会があるとして、今日は2つ目の方。
舞台関係者が読んで「つまらない」と言われて使われなければ、観客にもあなたの書いたことは伝わりません。
かといって一義的に面白ければそれでよいのかというとそうでもなく、あなたが苦労して書いた伏線や仕掛けなどに気づいてもらわなければなりません。でも気づくにはたいてい、1回読んだだけではわからないわけです。何度も読むうちに、読み手は「ああ、この台詞は前の別の登場人物が言ったことと関係しているんだ」とか、この行動はあそこの伏線だったのか」などと気づきます。何回読んだら気づくか?まあ、5回は必要です。
でもさらに読んで欲しい。
するとさらに新しい発見に気づきますし、ついには脚本作者でさえ気づいていなかった伏線、あるいは誤読による発見をしてくれるわけです。
この誤読というのが大事で、これによって特に演出家は作者さえ想像していないイメージを舞台に作り出すわけです。この発見と誤読を一般に「読み」というわけですが。
ここまで行って、もう新しい発見はないかなっていうのがだいたい10回。ここで初めてその脚本が「面白い」かどうか評価できます。

もしあなたが誰かに依頼されて脚本を書く場合は特に、相手が10回は読む人なのか、そうでないかはあらかじめ知っておきましょう。少なくとも依頼されたら最初にそれを聞いた方がよいです。もし10回読まないなら、「10回読んで下さい。そうでないと書きません」と言うことをおすすめします。
でないと、あなたはただ依頼者のセンスに迎合したものをつくらされる羽目になります。