そっくりな帽子

札幌駅に時々ですが、その少年は立っています。
少年といっても20歳前後くらい、立っている場所は南北線ホームの北端です。
駅員さんのように背筋を伸ばし、駅員さんと同じ形、同じ色の帽子を被っています。ただちがうのは、その素材です。

よくそんな色の紙を探してきたなあ、と感心するくらい、札幌市営地下鉄職員のそれとそっくりな色の紙です。悲しいくらい、形も同じです。一生懸命貼ったセロファンテープがいっぱい着いています。
列車が出発する時、彼は駅員さんの横に立ち、ともに見送ります。そして指さし確認をします。
その動作も美しいのです。
しかし昨日のことですが、彼の隣に駅員さんがいませんでした。でも列車はいつも通りに出発。彼は満足そうに列車を見送り、指さし確認をしました。そして紙の帽子を取り、額の汗をぬぐいました。
そこへ、駅員さんがすっ飛んできました。
「こら!」
大声を出したのは、紙の帽子の彼。「駄目じゃないか、遅れちゃ」。
「すいません!」と駅員さん。
札幌の地下鉄を動かしているのは、実は紙の帽子の少年だったのでしょうか。