駆け込み乗車はおやめください

地下鉄不思議列伝、その5。どうして人は閉まりかけの扉を見ると駆け込みたくなるのでしょうか。
おとといですが、買い物帰りの老夫婦が仲良く手をつないで、ホームへの階段を下りてきました。
ちょうどその時、列車は今まさに発車するところだったんです。奥さんの方が気がついて
「あれに乗りましょう!」
と一目散に扉へ走りだしました。
でも、おじいさんの方はその勢いについていけず、手が振りほどかれました。
奥さんの目の前には閉まりかける扉。

どうやら彼女の頭の中は、それに間に合うことだけが全てになっているようです。まだ階段のところで、妻に追いつこうとしてよろめいている夫には目をくれずに無我夢中。
「駆け込み乗車はおやめください」
というアナウンスも耳に入っていないのか、自分のことと思っていないのか。
奥さんは乗り遅れまいと扉に突進し、どうやら滑り込みました。
そして扉が閉まります。旦那さんはまだ階段です。
列車は走り去っていきました。その際に、車内の窓越しに、おばあさんとおじいさんは目を交わすことができたでしょうか。
ホームの端で立ちすくみ、旦那さんは徐々に小さくなる列車の明かりを見つめていました。

その翌日、つまり昨日ですがおじいさんはまだそこに立っていました。
聞いてみると、「あれ以来妻の行方がわからない」とのことでした。