スタートは早く見せろ

 「何をしたいのか」がかわからない物語は観客の興味を引きつけられません。その意味では、全ての軸は早くその姿を観客の前に現す必要があります。とりわけ看板軸は冒頭から姿を現し、「何が問題で、何を解決すべきなのか」が提示される必要があります。これが出てこないと、ほかの軸が看板軸と誤解されるおそれがあります。また看板軸は、できるだけわかりやすく、誰もが興味を持ちやすいものであることも大切。例えば「親子の葛藤」が最初に来てしまうと、今それに興味のある人しかついて行けません。「犯人を突き止める」「銀河帝国を民主的にする」「待ち人を待つ」などわかりやすく提示するのがポイントです。
 もちろん全ての軸に「早く観客の目に入れて、何が問題か明確にする」ことは必要です。そのためにも書き手である脚本家がそれを明確に知っておく必要があります。できればセリフを書き始める前に、それぞれの軸を整理します。登場人物の抱える問題は何か、あるいは何を希望しているのか(軸のスタート)、そしてそれがどんな形で手にはいるのか(軸のゴール)を表にします。看板軸も含めて全てを一覧表にします。このときすでに場面も頭に入っているなら、幕や場も書き込みます。
 さらに、それぞれの軸がそれぞれの幕の始まりでどのようになっているか(スタート)、終わりではどのようになっているか(ゴール)も書き込みます。もう一歩できれば、場ごとにもそれを書き込みます。すなわち、どの軸も物語全体、そして幕や場ごとにおいてもスタートとゴールを明確に設定するのです。これによってどの軸もたるむことなく進行でき、緊張感のある(=観客にとって心地いい)物語になります。

次回は、ようやく「半分に折る」です。

軸どうしが関係して物語になる

 昨日は物語には「看板軸」と「サブ軸」があり、それらの中に「主役軸」があるというお話をしました。

 さて、このような軸は、登場人物1人では作れません。必ず複数の関係で初めて成立します。恋物語や父親との葛藤なら、好きな相手や父親という対象があることはおわかりでしょうが、例えば「消防士になる」という場合も必ず他人とのやりとりの中でそれを実現させます。当然ですが、登場人物がほかの人物と関係なく消防士になる勉強をして試験に受かって、消防士姿を見せても、それは観客の興味を引きません。なりたいと思うきっかけや、挫折のきっかけ、あるいは復活のきっかけは必ずほかの人物からもたらせなければ、見ている方はなんの共感も持てないでしょう。

 またきっかけをもたらす人物も何らかの軸を抱えているとよい物語になります。軸どうしが互いに関係し合って全体の物語が形成されるのが一番望ましい形です。さらに看板軸がそれらの軸の関係全てに影響を与えていると、よい物語になります。観客は看板を見るだけで、全ての話に自動的に関与できるわけです。また看板軸の完結が全ての軸に影響を及ぼすことで、相前後して全ての軸が完結するといっそうよい物語になります。もちろんあるサブ軸の完結が看板軸の完結に大きく関係してもよいのです。

明日は「軸のスタートは早く見せろ」というお話。

看板軸とサブ軸

 「半分に折る」話をする前に、1つのドラマで語られる物語は1つではないという話をしましょう。
 ドラマの中にはまず観客の目に入る看板ともいうべき物語があります。例えば水戸黄門なら、「悪代官を懲らしめる」など、主軸となるストーリーです。これを「看板軸」と名前を付けておきましょう。
 もちろん「悪代官を懲らしめる」という会のみと黄門に含まれるストーリーはこれだけではありません。それに絡む町娘と手代の恋物語、父親との葛藤、腐っていた役人が更正する、など複数の軸があります。これらを「サブ軸」といっておきましょう。
 これらの軸の中に、脚本家がこれがメインと考えている軸があります。たいてい主役が背負う軸がメイン軸になります。水戸黄門の場合は、懲らしめるのが黄門様なので看板軸がそのまま主役軸ですが、看板軸は主役軸を誘導する役割になる場合が多いのです。例えば「七人の侍」なら、看板軸は「悪い浪人から村を守る」ことですが、主役軸は「農民という生き方の勝利」だったりします。
 長くなるので、いったんここで。明日は「軸は関係でつくる」話です。

全てのシーンを図で表す

構成ができたたときには、全てのシーンに名前が付いていると思います。「○○〜○○へ」という具合です。
そこまで完成したら、今度は系統図のように、全ての幕とシーンを図で表してみましょう。
エディタによっては、この構成が本文と別ウィンドウで表示されるので便利です。書きながら全体の中でのシーンの位置づけがわかるからです。例えばWindowsだとWZeditor。これは便利でした。
これで構成は完成です。
後はこれに内容を入れるだけです。

といいたいですが、実はここまで書いた構成というのは、弁当箱でいえば仕切りです。
物語そのものの作り方についてはまだ触れていません。アイデアを集めるということについては何度か書いていると思います。ではどんな風に断片的なアイデアを並べるとおもしろそうな物語になるのか、その辺は次回で。
一番簡単なのは、「起承転結」? 「序破急」? いいえ「半分に折る」ことです。

構成の実現の仕方

では、具体的にどのように構成はつくられるものなのでしょうか。
まずは、ある程度アイデアがそろったところでそれらを集めてみます。
次に、わかっている範囲で、要素をストーリーで並べてみます。
そして、流れが変わるところで、大きく3つに分けてみる
それぞれのかたまりに名前を付けてみます。かっこいい名前ではなく、流れが具体的にわかるように。例えば「出会いから最初の別れまで」「逃亡から再会まで」など。
そしてそのかたまりの中で、今度は中くらいの固まりにアイデアを分けます。おそらくそれがシーンになると思います。そしてそれぞれのシーンに名前を付けます。

はじめはこれだけでは物語は生成されないと思います。
しかし、大まかな流れはできたことと思います。わからない場合は、思い切って順序を変えてみるとよいでしょう。
そうするうちに、シーンからシーンへ移るまでに足りないシーンが見えてくるはずです。
例えば「出会いから片想い」というシーンの次に「相思相愛から別れ」があるとすれば、その間に「片想いから相思相愛へ」が不足しているとわかるはずです。これが1つかもしれないですし、2シーン足りない場合もあります。
自ずとそのシーンを加えなければならず、およそそれがどんな形で必要かも見えてくるでしょう。
見えてこなければ、アイデアを考える作業に戻ります。
もちろん、不足していたシーンの中身もアイデアを出す必要があります。

つまり、こうすることで脚本全体の中での幕の意味、シーンの役割が明確になるのです。
意味や役割のない幕・シーン・デハケ・セリフは存在してはならないのです。なぜならそれは演出や役者、スタッフに無価値なものを引き渡すことになります。彼らは観客に対して無価値な時間を1秒たりとも提供することを許されないわけですから、当然何らかの意味を加える責任が発生します。それ以前に脚本に無意味な時間があるとすれば、それは脚本家の責任放棄。それは彼らから二度と信用されません。

構成とは文法

私が今書いている文章を、あなたは理解することができます。なぜでしょう?
日本語を知っているから? それはつまり日本語の単語の意味を知っているから、そして単語同士のつながりで文の意味をつくる文法を知っているからです。
脚本にも同じことが言えます。
何度も書いたように、脚本は演出家、役者、スタッフ、そして観客に伝わってナンボの表現です。
しかし、私とあなたとの間を介するのに日本語があったようには、脚本家と彼らとの共通の文法はありません。
台詞の1つ1つが音節、シーンが単語、幕が文節、脚本全体が1つの分と考えてみましょう。それらの組み合わせから1つの意味を導く文法は、残念ながらありません。それは脚本それぞれによってちがうからです。仕方がないので、脚本を読んでもらう中で、脚本家が作った文法を読みとってもらうしかないのです。
そのためには、文法はきちんと読めば誰にでも共通に理解できるものでなければなりません。そもそも理解するためには、論理的な組み合わせであることが必要です。書く側の好き勝手では、読み方も不明だし、演出家や役者スタッフの皆に共通の理解は生み出せないことはおわかりでしょう。(もちろん、読みとる側がわざと文法を誤読して、全く理解の異なる舞台をつくるのは自由です)
文法に相当するのが構成です。だから構成は大切なのです。

構成・展開・軸

今回は構成のお話をすると予告しましたが、その前に構成の定義について。

物語は1人の登場人物だけで成立することはありません。よい物語は人物それぞれに問題と解決が用意されています。たとえば、宝物の探求から発見へ。あるいは片想いから恋愛(あるいは失恋)へ。あるいは父との葛藤から和解へ。つまりみんなにスタートとゴールを用意するわけです(今あげた3つはインディジョーンズに表れます)。そのスタートとゴールをつなぐ線を、私は「軸」と呼んでいます。軸が相互に影響し合って物語は進んでいくわけですが、その変化を「展開」と呼びます。

「構成」は展開を節目ごとにユニット化したものと考えればよいでしょう。ある人物の心境が変化した瞬間と、次に変化する瞬間をつないだ部分。あるいはある人物の登場から退場まで。あるいは暗転から暗転まで。小さな箱が集まって大きな箱を形成し、それらが集まってさらに大きな箱を形成し、全ての箱が集まって物語という箱を形成する、それが「構成」とお考えください。

ええっと眠くなったので、今日はここまで。次回は「構成とは演出や役者・スタッフに物語を伝えるための文法」というお話。