リンゴが腐るまで

最近はあまり聞かれなくなりましたが、交通標語で「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」というのがありました。

でも今思います。日本はそんなに狭くはないのではないか。

東北の震災のことも、その後の原発による放射線についても、北海道にいても(おそらく東京にいても)断片的な情報しかわかっていません。ましてや被害を受けた人、避難している人の気持は双眼鏡でながめるようにしか知ることができない。

住めなくなった土地はいまどうなっているのか、除染とは具体的にどんな作業なのか、被害補償がちがうことで住民感情にも軋轢があるというが、具体的にどういうことなのか。テレビや新聞などでもそうした報道はありますが、それは一般的な事例なのか極端なエピソードなのか、もしかしたら媒体の意図で恣意的な例を出しているのかもしれないという疑問もあり、「狭い」はずなのに、肌で分かる情報がないもどかしさがあります。

そう思っている時に、書店で「リンゴが腐るまで」(笹子美奈子著・角川新書)という本を手にとりました。著者は読売新聞の記者で、福島支局に2年くらいいたそうです。

本の中では具体的に賠償金の差による被災者間の問題、パチンコやアルコールに依存する人がいる理由、汚染水タンクの様子、復興を阻む役所行政、中間貯蔵施設が決まらないのは地元の反対よりも国が積極的な動きをしないことが理由、などといった、現地でしかわからない情報が書かれています。

また問題点がどこにあるのかという指摘もなされています。そういうことは声高に主張されるとこちらも辟易することがありますが、そういうこともないので、こちらもすんなりと受け止めることができます。また原発反対/推進どちらの側ということもないので、誰かを一方的にやっつける主張もありません。

もちろん読んだだけでは福島に対して何かをしたことになりませんが、一歩近づけたような気がしました。