なぜデビッド・オースチンは泉南にガーデンをつくったのだろう

 

前回は大阪府泉南市の、デビッド・オースチンのイングリッシュローズのガーデンを訪ねたお話をしました。今回はその続きです。

充分すぎるほどたくさんの、そしてきれいなバラの数々を見ることができました。しかしそこで気になったのは、気温。
駅からここへ来るまでに味わった、北海道にはない暑さ、そしてこれから迎えるであろう梅雨の湿度、その後の夏の灼熱地獄…。北海道の冷涼な気候できれいなバラを見ているだけに、とても気になります。

泉南市のローズガーデン

泉南市のローズガーデン

鹿児島県に「かのやばら園」というとても大きなバラ園があります。私も2度行きましたが、駐車場は平日でもたくさんの車で、ナンバープレートを見ると福岡、宮崎、熊本など、九州一円から来園しているのがわかります。
ここは鹿児島ですから、一年を通して大阪よりもさらに気温が高いことでしょう。そこにもイングリッシュローズだけを植えたエリアがあります。
大丈夫なんだろうか??

かのやばら園

かのやばら園

…大丈夫なのだろうと思います。
北海道で見るイングリッシュローズはそれはそれできれいですが、鹿児島でだってきれいじゃないわけではありません。多少薬剤は多くなるのかもしれませんが、それは聞いていないのでわかりません。ですが、当然耐暑性は考えて品種のセレクトをしていることでしょう。

そしてかのやばら園のイングリッシュローズは、すべてデビッド・オースチン社が提供したと聞きました。太っ腹な会社だ!という素朴な感想もありますが、果たしてそれだけでしょうか。
これだけ大勢の人が来るバラ園ですから、バラに詳しい人もいれば初心者もいますし、まったくイングリッシュローズを知らない人もいます。
そうした人たちにイングリッシュローズの魅力を伝えるためには、実物を見てもらうのが一番効果があるのではないでしょうか。
もしかするとそのうちの何人かはその魅力に驚いて、バラ園の売店で鉢を買って帰るかもしれないし、さらにファンになって何十株も買ってくれるかもしれません。

少なくとも大阪泉南のガーデンは、マイケル・マリオット氏がセレクトしています。バラに詳しい営業マンではありません。十勝千年の森のガーデナーさんによると世界中のバラを知り尽くして、広範囲な知識を持っているそうです。
高温多湿でも手入れ方法ではきちんときれいな花が見込めるものを選んでいることでしょう。

この泉南市のガーデンはただイングリッシュローズをたくさん植えて大勢の人に見せるためだけにつくられたものではありません。
もちろん隣接するショップでお買い物をしてもらうことも目的の1つでしょう。

数々のバラの奥に見えるのがショップ

数々のバラの奥に見えるのがショップ

しかし何よりもここは、あまたあるイングリッシュローズの品種、それぞれを見せる見本園でもあるはず。カタログだけではわからない、花の大きさや微妙な色合い、咲き進みの様子、花持ちの良し悪し、樹形、樹高などを見せる展示場でもあるのです。なによりイングリッシュローズの特徴の1つである香りは、カタログやネットでなく、実物でなければ伝えられません。

さて、そこまで考えた時に「なぜここにつくったのか」ということも見えてきます。かのやばら園では、九州一円から人がきていました。この泉南にはすぐ近くに関西空港があります。全国各地から飛行機でやってきて、日帰りすることも可能な場所です。
いや、日本全国のみならず、中国や韓国、東南アジアからもアクセスが容易です。一般の人も、商談に来るビジネスマンにも便利です。日本支社長さんがガーデン隣の事務所にいますから。
中国の人は真っ赤な花が好きでイングリッシュローズの色合いは好みじゃないかもしれませんが、私たちだって少し前までは鮮やかな一年草ばかり植えていました。さっぽろ雪まつりに来る中国人観光客の服もずいぶん変わりました。

そう考えると、デビッド・オースチン社の今後の壮大な展開がおしはかれるような気がしませんか。

関連本
「バラ大百科」(NHK出版)…バラの品種を1つずつ丁寧に解説した図鑑です。解説者は種類によってさまざまですが、どの説明もその品種に対する愛情が感じられます。そうでなければ1つにこれだけの文字数は書けないはずです。庭に植えられているバラはほとんどすべて網羅されているのではないでしょうか。