北海道には素晴らしい庭がいくつもあります。イングリッシュローズやつるバラが咲き、ゲラニウムをはじめとする数々の宿根草がのびのびと育ち西洋芝が青々と地面を覆います。その中のいくつかは全国紙に度々登場していますし、オープンガーデンで訪れた人も必ず「ステキねえ」と口を揃えます。
でもバラや、宿根草、芝生の3点セットがバランスよくなければいい庭にならないかというと、そんなことはないと思います。十勝の庭を見ると、よくそう思います。
由良久子さんの庭は北海道池田町、十勝の田園地帯にあります。十勝では畑はとても広大です。私は
思わず車を止めて、その広さを眺めいってしまうこともよくあります。由良さんの庭もそうした畑に囲まれています。
広い庭に憧れる人は多いですが、取材して各地を見ていると、庭づくりにおいては広さは厄介だなあと思います。平面的になりがちで高さや色のメリハリをつくるのが難しいこと、どれだけ植物を入れてもスカスカに見えてしまうこと、植栽スペースを広く取り過ぎて体力や気力が追いつかず、手入れが行き届かないことなど、デメリットがいくつもあるからです。
由良さんの庭に入ってまず目に入るのが、クレマチス・タングチカとその足元のユーフォルビア。まるで輝いているかのように色が映えるのは、2つの花が黄色でバックの壁がこげ茶色のせいでしょう。センスがいいんだろうなあ、と思っていたら、どうやら由良さんご夫妻は芸術家で、古い農家をそのままに住んでおられるのだそうです。先ほどのタングチカを絡めていた建物はもともと馬屋だったそうです。ちなみに現在はご主人の絵を飾る展示室として使用。
メインの庭は広い芝生で、その端のスペースをボーダーガーデンにしています。このように植栽スペースを欲張らないのもすてきです。
さきほど書いたように、花が好きな人はついつい植えるスペースを広げがちになってしまいますから。植えられているのは宿根草が中心。随所に目を引く色の組み合わせが見られます。本や雑誌はもちろん、よそのお庭では見たことがないマッチングで、とても興味をそそられました。この辺りも美的センスのなせるわざでしょうか。
広さがあるにもかかわらず平面的な退屈さを感じさせないのは、どうやらさき
ほどの馬屋があるためでしょう。雰囲気のある古い木造であること、2階建てで存在感があること、左右対称のつくりの中央に置かれたベンチが強力なフォーカルポイントになっていることがその理由のようです。
せ
っかくですから、この馬屋にもおじゃましましょう。
前述のように、中は展示室になっています。その壁を上手に活かして風景や人物の油絵がかけられています。もちろんどれもすごくすばらしいですよ。絵の好きな人ならこれらを見るだけで庭にいる以上の時間を過ごしてしまうかもしれません。階段で2階に上がりましょう。すると窓から庭を見下ろすことができます。緑の芝生。色とりどりの宿根草、その背景に樹木。ここまでが由良さんの敷地。さらにその向こうに広がるのは、地平線までつづく畑と小高い丘。思わず「わあ、すごい」と声が出ます。所有してはいなくても、この風景すべてが由良さんの庭と言ってよいでしょう。
雑誌社に写真を見せても、「読者にとって現実的じゃない」と言って掲載してくれないかもしれません。でも素晴らしい庭であることはまちがいないと思います。芝生にバラと宿根草ももちろんすてきですが、この風景の中で都会と同じ植栽をしてもあまりすてきではないかもしれません。十勝の田園風景と農家の建物に合った植物の使い方をするほうが魅力的に思えます。由良さんの庭に立っていると、いい庭ってその地域でちがっていていいはず、とあらためて感じました。
Hana Letter Magazine 発信おめでとうございます。恐れ多くも我が家の庭が第1号で紹介されるなんてなんと光栄な事か。妻のヒサコがあれこれ限られた予算で工夫してつくって、育てている植物をこのように取り上げて頂き、ちょっとプレッシャーがかかったみたいです。今年もどんな庭になるか、これからですが、楽しみです。