気持ちの入った庭はリピーターを呼ぶ ー長崎ハウステンボス「バラ祭り」

まずは花の多さに圧倒される

ハウステンボス「バラ祭り」

正直なところ、行くまでは「お茶を濁した感じだろう」と思ってました。花専門のリゾートじゃないですから。

でも私はまちがってました。来園者に入園料以上の満足を持って帰ってもらうことを真剣に考えたら、これは1つの正

解だと思いました。

2012 年5月、長崎ハウステンボスに行きました。「ガーデニングワールドカップ」などのイベントが行われているのは知っていましたが、それ以外にあまり予備知識 はないままおじゃましました。私は北海道の観光庭園もけっこう広いと思っていましたが、ハウステンボスはそのような規模をはるかに超えていました。ディズ ニーランドやUSJのようなテーマパークですから当たり前といえばそうなのですが、しかも全域にわたってオランダ的な町並みや風車の演出がしてあって、電 柱なんてどこにもないことにも驚きました。

オランダの町並みを模した園内の風景

オランダの町並みを模した園内の風景

「100万本のバラまつり」は毎年5月に行われているそうで、ここの花関係のマネージャーを務め ている方の講演も聞いたことがあります。ほんとうに100万本あるそうです。そして親会社HISの平林社長みずからハウステンボスに寝泊まりして指示をす るという話も聞きました。

はじめは疑っていましたが、行ってわかりました。その圧倒的な量にまずは圧倒されました。

花がテー マではないテーマパークですが、だからといって適当にお茶を濁しているところは1つもなさそうです。いやむしろふつうのバラ園でさえ実現できない量。そし て手入れもきちんとされているようです。花がらが落ちていないところ見ると、それも毎朝拾うのでしょうし、茶色い葉もありません。

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このようなガーデンルームがいくつも

 

1つのアーチに幾つもの種類のバラが

1つのアーチに幾つもの種類のバラが

つ るバラを壁面にはわせたもの、アーチにしたもの、普通に地植えにしたもの、スタンダード仕立てにしたもの、それ以外の空間にはポットに入れたミニバラを並 べています。ちなみに100万本にミニバラは含まれていないそうです。そしてこのポットは1鉢300円程度で販売されていました。

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スタンダード仕立ての株がズラリと並ぶ

 

来園者の様子を見てみると、当然花にあまり興味のない人のほうが圧倒的に多そうです。でもだれもが驚いて、圧倒され、一緒に来た友達や家族とワイワイ話し、写真を撮っています。

きっと帰れば家族や友達に楽しそうにしゃべるでしょう。そしてその相手を誘って来年も来ることでしょう。

何枚撮っても収められないくらい広い

何枚撮っても収められないくらい広い

 

取材などで観光庭園を訪れていると、明らかにリピーターの多い庭とそうでない庭とがあります。

そ の違いを考えてみると、デザインの良し悪しとか、はなやかさとか、通好みとか、珍しい植物があるとか、そういうのはほとんど関係ないことに気づきます。雑 誌に載せる価値観で「もう少しなんとかしたほうがいいんじゃない?」という庭でも、実は気に入って何度も通う人がいます。逆にきれいな庭園でも、初めての カップルやファミリーしか見かけないこともあります。

 

リピーターの多い庭園 は、運営者が個人や家族でやっている場合が多いようです。たぶんオーナーの気持ちが入っていて、それが現場のガーデナーさんにも伝わっているのだろうと思 います。オーナーが今ひとつ気持ちを入れていなくても、現場がそのぶん「ここは自分の場所だ」と思ってがんばっているところも同じです。

 

花に詳しくない人のためのプレートもある

花に詳しくない人のためのプレートもある

ハウステンボスのバラ祭りも、デザインに詳しい人なら「これはだめだろう」と思うところもあるでしょうし、バラに詳しい人なら「その品種をそんなふうに使うか?」と批評するかもしれません。

でもこれだけ来園者が喜んでいるというのは、オーナー以下マネージャーもガーデナーもそれぞれの立場で気持ちを入れて考えたり動いたりしているせいかもしれません。

もちろん、広い敷地に花をたくさん入れることだけが正解ではないでしょう。たぶんそれぞれの庭園ごとに、またその時期ごとに正解はあることと思います。ハウステンボスを歩きまわって、別の形の正解も見たくなりました。

関連本
「バラ大百科」(NHK出版)…バラの品種を1つずつ丁寧に解説した図鑑です。解説者は種類によってさまざまですが、どの説明もその品種に対する愛情が感じられます。そうでなければ1つにこれだけの文字数は書けないはずです。庭に植えられているバラはほとんどすべて網羅されているのではないでしょうか。